馬の耳新聞 ~Vol.6 牛走と信玄~ ハカマダ
- 2002.05.12
金谷ヒデユキさんという方がいます。
面白い歌をいっぱい歌っていて、一番有名なのはタモリのぼきゃぶら天国のコーナーにレギュラー出演していたことだ思います。地獄のスナフキンなんて言われていました。
ひょんなことからその金谷さんにお会いしたのは、去年の梅雨前だったかと思います。
初対面アンド仕事のお話だったので、割りと硬い打ち合わせだったんだけど、「まぁよろしく」みたいな流れになって、解散かなと思ったら、金谷さんが突然面白い話をしてくれました。
「袴田さん、吉祥寺に「牛走運輸」ってのがあるんですよ」
言い忘れたが、金谷さんは現在「吉祥寺フェチアーティスト」というフレコミで頑張っている。フェチとまで言うのだから多分、寝ても覚めても吉祥寺のことを考えているんだろう。そこで引っかかったのがこの「牛走運輸」だったらしい。
とにかくもせっかく金谷さんに会って、事務連絡だけみたいな話もなんだなぁと思っていた矢先にこんな情報が来たもんだから、多分僕も相当目が輝いたんだと思う。
「や、牛が走ると書いて「ぎゅうそう」って読むんですけど」
と再び金谷さん。ちょっと恥ずかしそうだ。
つまり金谷さんは、運送会社のイメージキャラクターは数多くあれど、
「牛」
というのは相当だと思ったらしい。
確かに牛のイメージだと「遅い」とか「のんびり」みたいなところがある。ま、力はあるだろうけど、ちょっとねぇ、みたいなニュアンスなんだと思う。
運輸、あるいは運送会社のイメージキャラクターもそろそろ飽和状態で、各社ともにアイデアをしぼっている感じは昔からあった。
有名なのは、「クロネコ」であったり「ペリカン」であったり、どうも動物が人気のようだ。他にも「ダック」とか「ゾウ」もある。
そんな状況の中、牛を選んだ牛走運輸。
そしてそれが気になる金谷ヒデユキさん。
想像だけど、当時の金谷さんの日常は、牛走運輸のことでほぼ埋め尽くされていたに違いない。
寝ても覚めても牛走運輸。
四六時中、頭ん中は牛走で一杯。
引っ越しの予定もないだろうに。
ここから導き出される結論というと、あまり上手く思いつかないんだけど、あれだ、運送会社は大変だ、ということでいいのかもしれない。運送会社はものを運ぶだけでなく、イメージキャラクターも必死で考えなきゃいけない。
そうでないと、まぁ、誰もあまり困りはしないが、少なくとも金谷ヒデユキさんは大変になる。
例えば、これは本で読んだ話だけど「正義の味方引っ越し屋」みたいな運送会社がある
らしい。
冠に「正義の味方」というのも相当だ。
「シュワッチ」と言いながら梱包するのか。あるいは「ライダーキック!」と言いながら、「あ、ここにハンコください」みたいな話になるのか。
それともあれだ。
「正義の味方」という語感から判断すると、あれが一番近そうだ、ほら、家宅捜索の時によくダンボール運んでる、あのスーツの集団。
今まであれは検察庁の人だと思ってたけど、時代はアウトソーシングだ。官公庁といえど時代の波には抗えない。案外家宅捜索って外注で、あれが正義の味方かもしらん。
僕が検察庁の人間で、仕事頼むんだったら「正義の味方」以外には考えられないな。
申し訳ないんだけど、牛走もペリカンもクロネコにもちょっと頼めない。
「あ~、正義の味方さん? 今度池袋で脱税の証拠押収があるんだけど、ちょっと頼まれてくれないかな?」
「わかりました! いつもどおり、ワゴン2台でよろしいですか?」
「ノン! 今回は大物だ。4台で頼む!」
「4台ですね! ラジャー!!」
これが一番しっくり来るな。
で、しっくりついでに正義の味方、家宅捜索のない日は引っ越しをやる。
すごいぞ、正義の味方!
話を戻します。
最近見て度肝を抜かれたのは「信玄運輸」という運送会社。大胆にもみなさんもご存知、戦国時代の名将「武田信玄」から名前を取った運送会社だと推察する。
深夜の目黒通りで信玄運輸のトラックと併走しちゃったんだけど、あっという間に気分は戦国時代だ。
遠くから聞こえる法螺貝(本当はパトカー)。
僕が乗ってるのは車ではなく、もう馬だ馬(本当はマーチ)。
行くはずだった碑文谷に住んでる戦友よ!(本当は会社員)
ごめんごめん。悪いけどちょっと待ってもらって、僕は信玄公といっしょに交通戦争という戦に出陣である。
目黒通りを上っていく信玄公と僕のマーチ。心なしか車線変更もいつもよりスムーズだ。
信玄公に恐れをなして、みんな道を開ける(ように見える)。さすが全国一勇猛と恐れられた武田騎馬軍団の総帥だ。
僕は、このまま信玄公についていけば間違いない、いずれは一国一城の主だと思ったんだけど、信玄公は自由が丘付近でウィンカーをチコチコ出して、すいっと左折してしまわれた。
その瞬間、しゅるしゅると普通のマーチに戻った僕の車。戦国時代から一気に平成不況の現代にカムバックだ。あ、ごめんごめん、友達よ、すぐ着く。
余談だけど、信玄運輸のトラックのナンバー見たら、やっぱり山梨ナンバーでした。地方によってはこういう運送会社もありなんだと、ちょっとびっくりした話。
だけどもこうなってくると運送会社業界もさっぱりわからなくなる。
新潟に「謙信運輸」はあるのか。岐阜に「信長運輸」はあるのか。はたまた山陰地方の「毛利運輸」はどうなのかと疑問噴出である。運送業界も戦国時代! みたいな業界紙の見出しが目に浮かぶようだ。
さっきちょっと書いたが、動物もそうだ。
最近個人的にどうかと思っているのは、アリのマークの引っ越し便だ。真っ黒なアリが大八車みたいなものを一生懸命引っ張っているマークがトラックに描かれているんだけど、
なんだか強制労働みたいで可哀想になってくる。社長は女王アリなんだろうか。
自由競争の世の中、運送業界だけでなくいろいろなところで各社ともにアイデアを絞ってるんだろうけど、中でも面白さで言えば運送会社は注目株かもしれない。牛走もがんばってほしいものだ。信玄もアリもだけど。
どうでもいいが、呼び捨てで呼ぶと運送会社は何が何だかさっぱりだ。
ま、確実なのはきっと金谷ヒデユキさんの苦悩が続くということ。
今度あったら、信玄運輸の話をしようかと思います。